ダービー2017

お馬さんは走る。

己の本能に従うべく。

人の願いに応えるべく。

それを観て一攫千金を狙う小物たちを嘲るように。

 

ダービーの初体験は1988年の東京競馬場5月28日。

入社6年目の”いっぱし”を自覚し始めた28歳。

仕事では慣れを覚え、その前後左右が理解出来るようになった小生意気な青年。

付き合える”彼女”はモーレツに欲しがっているのだが、

その実は自分が思っているほどに世の女性たちは

「そこまでランクは落とせはしないわ」などという自覚も持っていて、

それなら泡銭なら風俗直行にてそのウサを晴らしても罰は当たらぬでしょう、

などとヒトリゴチ、それを疑いさえしない若さを特権などとほざけるお年頃。

同期のNがその典型。おそらくNの方も俺のことをそう思っていただろう。

 

世は泡がまねくそれが幸福そのものだということに酔える時代。

それが後押しした格好となった府中本町下車の東京競馬場

 

立錐の余地なしとはこの事を言う。

喧噪、怒号、悲鳴、それらが混じり合う二分半。

そこにいる15万あまりのベクトルがそれに統一された瞬間、

その時以来、この日は俺にとってお祭りの日となった。

 

結婚をした年、子供が生まれた年、二人目が続いた年、

転勤、そして退社、新しい場所、新しい人、懐かしい人、

それぞれの年にそれぞれのダービーがいた。

 

そして今年もまた、その日を迎える。

今年のダービー馬は 親父が亡くなった年のそれとなる。

何年かしたら、そうやって思い出すだろう馬となる。